古本屋と豚骨

時間があると古本屋の100円コーナーを探す。幸いまだ小さい字が読めるので、かさばらない文庫本で事足りる。昨日はクルマのオイル交換の時間を使ってラーメンを食べに行った。ラーメンが食べたかったのではなく、ラーメン屋しかなかったのだが、途上に古本屋があるのでついでに立ち寄りラーメンを食べながら読もうとしたのである。
この頃、「武士の一分」の影響で、藤沢周平は品不足。そこで、池波正太郎を物色するが、「剣客商売」「鬼平犯科帳」は人気商品で、300円のところに移動している。しかし、前から欲しかった剣客商売の番外「包丁ごよみ」が入手できた。「剣客商売」では、そこに出てくる料理にも味があり、食通で知られた池波正太郎のセンスが見えてうれしい。
表現に苦しむのだが、食事そのものの味ではなく、料理というのか、食べものも含んだ調度というのか、誂えというのか、そうしたものを交えたものに価値観を置いているような気がして、料理人だとか、店の佇まいだとか、あしらいまで含めて描き込んでいる。そのため、「剣客商売」でも話の質と場所に応じて料理が現れる。この本では、そうした場面場面を作った料理を実際に作ってみているのだ。
料理をしているのは、近藤文夫という方。山の上で天麩羅を揚げていた人だそうだ。いろいろ興味深いが、連載を残して池波が逝ってしまったことも書かれていて、最終回に何を用意していたのか想像が尽きない。
さっそく、作ってみたくなったのが、根深汁(ねぶかじる)である。出汁で溶いた味噌で葱を軽く煮立てる。葱のみそ汁なのだが、その味わいの深さはたまらない。
その本を買って、そのまま豚骨醤油のお洒落な今風ラーメン、バグジー系の「ヌードル・ハーツ」でラーメン大盛りトッピングなしを待つ間に読んでいたのだが、いやあ、不釣り合いも甚だしい。食べものを間違えた。

剣客商売 包丁ごよみ (新潮文庫)

剣客商売 包丁ごよみ (新潮文庫)