夢十夜

たしか、夏目漱石100年とかいうのを記念して作ったもの。DVDで。
元々短編作品が好きなのだが、これは秀逸なものが並んでいる。原作と同じ並びというのもいい。
第一夜は脚本久世光彦、監督実相寺昭雄。悪くないわけがない。案の定という展開で、もっとも漱石の世界をそのままに描いている。
第二夜が市川昆。鬼籍に入った人たちのこういうものを見せられるともっともっといろいろなものを作って欲しかったともったいなくもくやしくもなるが、それは勝手な話で、できあがったものを謹んでいただくより他にない。
白眉は松尾スズキの第6話。作りが完全に黒澤映画。阿部サダヲの動きまで黒澤作品である。原作のことばをそのまま使っているのに新しい。うまい。おもしろい。凝りすぎて何が原作のよさだったのが判然としなくなるものもないわけではないので、その点でも、この3作は元々原作での関心もあっていいものだった。
残念なのは、第十夜の豚である。内容も展開も悪くない。キャストは実によく練り上げられている。なのにエンディングだけでくやしく、後味が悪い。
映画はキャストだなと、本上まなみや小川たまきを観ながら、そう思った。小川については、指先や足首が印象的な人だが、その部分をよく活かした映像になっている。表現したいものを人という形で描き出すのはけっこうしんどい仕事なのだ。

夢十夜 他二篇 (岩波文庫)

夢十夜 他二篇 (岩波文庫)