大きなステップワゴン

ホンダの革新性は誰もが認めるところで、その心意気に惹かれて少々できが悪くても乗り続ける人、買い換え続ける人も少なくない。だけど、この会社はクルマをどんなものだと考えているのかが、時折大きくぶれることがある。
スパルタンなモデルは案外意志が継承されて、ほかではやっていませんみたいなクルマを次々にリリースしているし、FFとしては稀少になったスポーツカーを海外では生産している。考え方に一貫性が見えにくいのは、スタイルの方だ。トールボーイで一世風靡したシティがすっかりゴキブリ型になったように、大きくなったり、小さくなったりしている。今回のステップワゴンのモデルチェンジは実に意外だった。
初代ステップワゴンは5ナンバーの最大サイズでとにかく広く大きく作り、ホンダ得意のエンジンをワゴンにさえ搭載して、十分な動力性能で、かつての名車「ステップバン」*1を現代向けに作り直したようでおもしろいコンセプトだと感心したし、また、よく売れた。*2ところがやっぱり横風に弱かったり、図体の大きいクルマを基本的には忌避する会社なのだったりするのだろう、コンパクトで室内を同じあるいはやや大きくした全体に小振りになるミニバンとして作られた2代目は、よくできたクルマだと思われたが、大衆からの支持が今ひとつだったのか、結局、3代目になって、また大きな図体になった。ホンダのこの変節が何を示しているのか。
もはや、ホンダはかつてのような革新性だけで会社を維持できるほど小さな会社ではない。売らなければ傾くのである。ということは、多くの人々が、CO2だの何だの言いながらこの大きなミニバンを支持すると言うことなのか。さすがに燃費はいいよとうたっているが、いまさらウルトラマンを引っ張り出すセンスといい、ウルトラマンタロウの角がひっかからないほどの室内空間というようなCF画像といい、何世代か前に戻ってしまったかのような印象は、残念ながら大衆受けするのかもしれない。ということは、なんだかんだ言いながらよじ登るような大きなクルマ、子どもがリアシートを自在に跳ね回るようなクルマ、難民キャンプのようなオートキャンプ場に家財道具を満載していけるようなクルマ、隣のクルマが小さく見えるようなクルマ。そういうものが求められているのだろうか。
気分、雰囲気。時代を覆う節操のなさに、いよいよやり切れないが、そうした大衆が社会を構成するもっとも大きな心情を形成している。そう考えるのはいよいよ心苦しくもある。

*1:派生車のバモスホンダは、ダックスやモンキーのような異彩を放っていた

*2:個人的には、S-MXやHRVの方がホンダらしくて好きだが、あんまり継続性がなかった。つまり、売れなかったらしい。これは、クロスロード←売れない。にも通じている。