松之山温泉

お昼を過ぎてから、松之山温泉に行こうと、なった。いつもこうだ。思いつきなのだ。2時間もあれば行けそうだと、途中車中でお握りでも食べながらと決め、出発。
上越まで高速道路を使い、そこからほくほく線に沿うようにして進む。キューピッドバレーのあたりには行ったことがあるけれど、その先は初めてだ。見慣れぬ風景が続くが、分水嶺を越え、十日町に入るとすっかりと棚田の風景。天地人の、たぶん、あの風景はこれか。上越までの道のりは、直江兼続にゆかりの街道であったわけか。
十日町はやけに温泉が多い。松之山温泉は最も有名だが、ほかにもたくさんの温泉が出ている。大陸プレートの境界は、糸魚川ではなくこちらから長岡の方へ向かい、そのまま佐渡の南に抜けているんじゃないかという説があるそうだが、そうかもしれないと思わせる。
松之山温泉は、日本三大薬湯と名乗っている。源泉は80度を超し、独特の石油臭のあるしょっぱいお湯はいかにも効用がありそうだ。十日町市だが、このへんはむしろ松之山とか、松代と言った方がいいのだろう。十日町に抜けるには、今でも、峠を抜く長いトンネルを通らねばならぬ。
松之山温泉も、何カ所かに広がっていて、坂口安吾のゆかりなんかもあるし、明治時代の3階建ての木造建築なんてのもあったりして、興味は尽きないが、湯本にあたる鷹の湯に入ることにした。最初はスタンダードにということ。
温泉の界隈は小さい。お湯の良さで持っているのだろう。あたりの森は豊かで、さまざまな遊歩道が整備されているものの、雨でそちらは今回、見送り。

温泉街の中程に鷹の湯はあるが、そのまま源泉まで行ってみる。小さな川の畔に新しい源泉の塔がある。護岸も新しいので、もしかすると中越地震のときに被害でもあったか。火気厳禁と書かれた看板が恐ろしい。発火することもあるんだろうか。

鷹の湯に戻り、入浴料500円を支払い、なかへ。この間まで400円だったそうだ。来る途中にキョロロとか書かれた看板があって何だろうと思っていたが、ポスターが貼ってあり、川虫の展示をやっているという。特に、そういうものを勉強する必要もないかも知れないが、展示方法などを勉強するにはいいかもしれないと、上がってみて時間があればそっちに向かうことにする。
お風呂は、長方形で、けっこうゆったりと入れる大きさの湯船。それに、屋根付き露天風呂。80度を超える源泉が流れ込んでいる。循環はしているらしい。うっかりと踏み込んで足を吸い込まれ、驚いた。
とにかく、熱い。加水しているとあるが、ホースで入れているわけで、熱いのが好きな人も多かろうと思うのでなかなか入れることは出来ない。幸い露天の方はぬるく、ちょうどいい加減で、そちらに入ってからにすると、肌馴染みがでてきた。
塩分がきつい。製塩に使われたこともあるそうだ。そのうえ、循環の最中に油でも染みこんだかと思うほどの、石油臭。本当に、こんなに臭うんだ。ボクにしては異例とも思える長い時間漬かっていた。多くの人はそこらで真っ赤になってのびている。家に帰るまで温かいという。*1
上がってみると、キョロロとかいう森の学校の入館時間にぎりぎり間に合いそうだった。駆けつけてみると、全体が鉄で出来た銹びだらけの奇妙な建物。里山科学館とかいうそうだ。森全体を博物館にして、さまざまなネイチャリングアクトを展開してるらしく、ボク好みである。
中に入ると、蛇やら見慣れたは虫類、魚類の展示。昆虫採集の道具などを発明し、昆虫採集の父と言われる志賀卯吉のふるさとだそうで、志賀コレクションも展示されていた。ほかにも、ここらの雪のくらしを物語る民俗展示もあって、ちょうどテレビが取材中。
こういうはげしいかんじきを使っていたらしい。5メートルという雪に、一度そんな時期にきてみたいものだと興奮。

川虫の展示の方は、どうやらフライマンガ大いに協力しているらしく、理科とか、科学のような展示ではなく、少しそういうのもあるんだけれど、多くは、魚が補食している川虫ってのはこうやってこういうところにいるんだよという展示だった。
何しろ、最初の方にロッドやフライを展示していて、フライを虫のようにルーペで見たりする。ミッジのところに、ロイヤルコーチマンガあったりして、そこらはご愛敬だったが、ストマックを樹脂で固めて標本にしてあり、トビケラを巣のまま捕食している様子がはっきりとわかったり、脱皮殻を中心に食べていたり、それなりに興味深いものだった。特に、樹脂加工はなるほどと思わせるやり方で、少し真似してみようと思った。
関連本として、フライの雑誌社の「水生昆虫アルバム」が置かれていたのはうれしかった。
トビケラの扮装をするコーナーがあり、カディスフェチには全くたまらない企画だったが、水槽に落ち葉が散りばめられ、中にいるトビケラを探そうというあたりは、いよいよフェチ全開である。ここに入っていたのが、日本最大のトビケラ、ムラサキトビケラである。落ち葉で洒落たパッチワークのような巣を作る。大きさが5センチくらいあって、自然の造形のあまりの精巧さに驚いてしまった。こういう展示の仕方もおもしろい。今度、ぜひ真似してみよう。
キョロロのまわりの森はそのまま教育フィールドになっているらしいし、近所には美人林というブナ林があるそうだが、時間と天候で断念。近いうちに、棚田めぐりとこの森を訪ねてみよう。新しい楽しみが増えた。
せっかくなので、十日町に向かう。「わらぐつの中の神様」の町だが、昔ながらの雁木はすっかりと新しいアーケード調ののものに変わってしまったらしく、思っていたような通りは見あたらなかった。それでも、ゆっくりとした、ゆったりとした、それでいて力強い信濃川の流れのような空気は感じられた。
当地の名店、小嶋屋総本家でへぎそばを食べる。特にうまいわけではないが、訪ねておかなくてはという気持ちで。空いている時間帯で、わりにゆっくりと食べられた。野菜の天ぷらにしたが、天ぷらはうまい。いい揚がり具合。それと、そば湯のタイミングは絶妙。ちゃんと見ているんだな。そばには好き嫌いがあるけれど、名店はこういう肝心だけはおさえている。なぜか、わさびの代わりに辛子を使う。その方が合うというのだが、とりたててそうも思えず、もう少し研究が必要だろう。そば湯は、さすがに機械打ちだけあって、強さが足りない。しっかりとそばの方に練り込まれてしまっている印象。
小千谷まで足を伸ばすが、特に、見るべきものもなく、町の空気を味わって、関越回りで帰宅。米山で食べた揚げまんじゅうがうまかった。もう少し、ゆっくりと行けば良かったかな。
帰ってきてパンフレットを見ると、案外見所も多い。しっかりと予定を立てて旅をする必要を感じているが、ふらっといって見つけたものも、そう悪くはない。
今度はここから信濃川沿いに野沢の方へ行こうかと。野沢菜と、オヤマボクチのそばが待っていそうである。

*1:それは全くのところ本当で、自宅に帰っても足はぽかぽかしたままだった