野沢温泉第1日目

10年ぶりの宿泊でのスキー。いや、もっとか。十数年ぶりになる。
スキー100年を記念して、行ったことのないアルペンスキーの聖地、野沢温泉に行くことにした。直前に民宿の予約。どういうところがいいのかもわからず、とにかく、値段と「シニアスキー」と書かれた文字に惹かれた。ほかに、めぼしい場所もなかったのだが。もうおっさんである。それにふさわしい立場を許容しないと。
朝、かなりゆっくりと出発。2時間ほどで野沢温泉に到着。割に早い。日帰りでも十分な感じさえする。
さっそく民宿へ。温泉街のちょうど中程にあり、長坂のゴンドラにも近い。車を駐車場に入れて、昼食がてら温泉街の散策へ。いきり立ってスキーをするほどの年齢でもなく、宿泊なりのおもしろさはこういうところにある。
温泉街は総じて道が狭く、それが何とも味わいがある。くらしと温泉が直結している。何せ古い温泉だ。外湯が楽しみなのだが、道すがらいくつもの外湯に出会う。風貌も仕様もずいぶん違う。
目指すのは、庄平そば。宿の主人に教えてもらった。ヤマゴボウつなぎで知られた店だ。
入り口のポスター。スキーの風俗がよくわかる。「湯」の文字は岡本太郎らしい。野沢温泉村の名誉村民とのこと。

ヤマゴボウだけでつないでるので、生そばといえば良さそうなのに、98パーセントなどと書いてある。そもそも、つなぎ粉でなければ他のつなぎを使っても「生粉打ち」なんだけれど、最近は「十割そば」という言い方が一人歩きして、そば粉だけのものしか認めない傾向にある。粉のうち、十割がそばという意味なのにね。二八だって、外二*1もあれば、内二*2もある。もっとも、「生そば」と書いて「なまそば」と呼ばせる酷いのもたくさんある。

お定まりざるに、おやきも注文。

どちらも味わい深いものだった。おそろしくつるつるして、それで長い。50センチはあるな。どうやら激しく打ち込むらしい。風味よりもつなぎ。粘り腰が、そばの性格になっている。そば湯は、やかんで提供。いつもかけられているというのは驚いた。

まあ、いいそばだな。堪能した。


足湯もすぐ前にある。若い女性が足を出していると何だか照れくさい。
大湯まで足を伸ばし、近くの土産物屋さんで布のいいものを見つけて彼女がさっそく迷った挙げ句に購入。
帰り道に一番宿から近い新田の湯を確認。お風呂の隣に、いわゆる野沢菜と呼ばれる3尺蕪を洗う洗濯場がついている。このあたりのお風呂は全部無料。地域の人が管理しているのだそうだ。



なるほど、十二神将にかけてあるんだ。
宿に戻って支度する。久しぶりだな、民宿のおこたの感じは。宿には炭の香りが漂って、それがいい味わいを出している。宿の主人がゴンドラの乗り場まで送ってくださる。
いよいよ、野沢デビュー。
長坂ゲレンデで足慣らし。雪もなかなかいい。時々強く降ってくるけれど、雨よりはいい。カービングするには本当に気持ちのいい斜面。また、上手な人が多く、とても参考になる。
ゴンドラの様子が変だと思っていたら、どうやらトラブルで停止中。
そこで、日陰ゲレンデに移動。野沢のメインゲレンデ。頭上にシュナイダーの壁が見える。ぎんぎんのカービングの人ばかりで、なかなか刺激的だ。
長坂ゲレンデに戻ると、ゴンドラが復旧。一気に上ノ平に上がる。そのうえは天気が悪いので、上ノ平を滑る。これがなんとも長くてずっとだらだら続く緩斜面。楽はいいが、そのうちに飽きてきた。その下のパラダイスも似たような感じで、悪くはないが、食い足りない。
そこで、ブナ坂を下りてみる。途中の水無ゲレンデはほぼ無人カービングのレッスンをしている人たちに遭遇。これが無茶苦茶うまい。特に、女性のうまさは格別で、最近のスキーはこうやるんだなとようやくつかめた。やっぱり、アルペンの聖地。こういう人がごろごろいる。
ここで、午後4時の触れ。もうそんなに経ったんだな。激しいコースを降りるには視界が悪く、林道のようなところを下る。けっこう幅が広くて悪くはないが、それほど快適ではないし、下山の人も多く、人をよけながら下る。ボクだけならいいんだけれど、彼女もいっしょなので、そこは少し神経質に。
チャレンジコースの下部だけ激しい斜面を下り、日陰の連絡リフトから長坂に出て、長坂ゲレンデを上り返し、スキー発祥のモニュメント付近でスキーを脱ぐ。
いやあ、さすがに野沢。どこをとってもよくできている。何よりもスキー場の整備が万全で、奇妙なギャップや違和感のあるコース設定がない。そのせいか、変な転び方の人を見かけないのだ。
幸せな気分で、宿に帰る。歩いて、数分。宿にはエアーコンプレッサーもあって、もう必要十分の装備。どうやらいい宿を探し当てたらしい。
着替えて、まだ日が残っているうちに一風呂浴びる。とにかく、大湯に行こうと繰り出す。

温泉街もそこそこ人が出始めている。
野沢温泉のお湯は熱いのが有名。何しろ源泉からそのまま流し込んでいる。大湯を覗くがちょっといっぱい、そこで河原の湯を覗くがそれもいっぱい。麻釜の湯に入る。

外湯というのはたいていどこでもそうなんだけど、湯船の横にそのまま脱衣所があって、途中に仕切りがない。入り口の戸を開けるとそのまま湯船という雰囲気で、ばっと明けると裸の人がいて驚くという感じになっている。まあ、外から見えないからいいやってな気分だが、そのうち慣れてしまう。
湯船は人でいっぱい。そのうえ、熱くて入れないらしい。硫黄の香りのするお湯は湯気だけでもずいぶん温かく感じる。泉源に近いところがぽっと空いたので滑り込む。実は熱いお湯が苦手。ところが体が冷えているのだろうか、全然平気で、わーわー言っている若い仲間連れをよそに十分に浸りきっていた。不思議なくらいだった。
宿に戻ると、ちょうど食事。じゃらんで予約したやまたつという民宿なのだが、有機米を自慢にしていらした。それだけでなく、食事全般にボクらの年齢層によく合って、とてもおいしい。よくお米のブランドをいうけれど、これはおそらく同じ田んぼで、あるいは、ごく近くの田んぼで取れたもの。米一つ一つが過剰に光っていることもなく、ごく普通に米の味が深い。ボクはこういうのが大好きなんだ。どれひとつとっても、おいしい。かぼちゃも、鯉の刺身も、チキンのフライも、みんなよく味わってゆっくりいただいた。野沢菜の混ぜご飯もおいしかった。おいしい食事を味わうためにビールも飲まなかった。これは寝しなの風呂上がりに飲むんだ。
食事の後、少しマッサージをして疲れを抜き、新田の湯へ。ここは脱衣所がある外湯で、彼女の方は、管理しておられるおばさんたちといっしょになり、いろいろ入り方を教えてもらったようだ。
お湯の調整もいろいろ工夫があっておもしろい。カメラを持ち込めないので画像がないのが悔しいが、なるほどと思わせる。
誰もいなかったところへ、タオルもなくそのままザブンと入るような連中が大量に入ってきた。今どきの人は、若い人年輩に限らずシャワーで日常の入浴をまかなっている人も多く、どうも風呂に入れない、入りにくいらしい。麻釜の湯よりは熱くなく、相当十分に漬かった。いいお湯である。これも、麻釜の泉源から引湯しているらしい。彼女とは宿に帰ることにして待ち合わせたので、相当にゆっくりした。宿泊の楽しみである。

宿のロビーで金麦を買って、ばーっと飲み干す。
スキーの聖地、野沢温泉の夜は気持ちよく更けていった。

*1:そば粉の重さの二割のつなぎ粉を使うもの。そば粉の量は10/12になる

*2:そば粉対つなぎ粉を8対2にしたもの。そば粉の量の1/4がつなぎ粉