湯女の魂

泉鏡花の妖しい話は今もお気に入りである。
金沢を訪ねても、室生犀星よりは、泉鏡花の心を湧き立たせたはずのものにときめく。
湯女の魂という作品は、実在の地名が出てくる。ボクの町なのだ。なのにしっかりと読んだことがなかった。青空文庫にあって、この間から繰り返して読んでいる。
こんな記述がある。本文からの引用。

さてこれは小宮山良介という学生が、一夏北陸道を漫遊しました時、越中の国の小川という温泉から湯女の魂を託って、遥々東京まで持って参ったというお話。 越中に泊と云って、家数千軒ばかり、ちょっと繁昌な町があります。伏木から汽船に乗りますと、富山の岩瀬、四日市、魚津、泊となって、

当時の小川温泉は越中切っての温泉で、江戸時代の諸国名湯番付にもたいていのものには入っていて、ことによると三役クラスになっている場合もある。よく温まることで知られ、子宝の湯として名高い。今でも半洞窟の露天風呂は温泉巡りの人々につとに評判だ。
この記述からは、明治時代には越中と越後の両越国境は船で往来するらしいことが伺える。親不知、筒石といった難所を確実に往来するには、船の方が安んじていられたらしい。それほどに陸路は厳しかった。たかだが、百年前である。
この小説を翻案してみたい気持ちに駆られている。また、余計な道楽に手出しをしているのだ。もっともっとやることはあるというのに、しようがない話だが、仕方なくはない。