糸魚川 泉屋

糸魚川は日本の東西を分ける街。
越中と越後の国境は、飛騨山脈日本海に落ち込む断崖。そこをすり抜けて東日本に入り込むと、相違がさまざまにある。カップラーメンの出汁は違うし、鼻濁音がなくなるし、味噌の味が違い、アルビレックスのポスターが貼ってある。
だけど、食べ物はけっこうよく似ている。バタバタ茶や鱈汁は共通しているし、蕎麦のつなぎに自然薯を使うのも両越地域で相通じている。
そのせいもあってか、この土地の蕎麦はやけに性分に合う。
今日は、とにかく、おだじまを目指したが売り切れ仕舞い。では、と名店、泉屋へ。
北陸街道の雁木通りの中にあるお店の佇まいは、いかにも蕎麦屋。古い町屋をそのままにして、風情を残している。隣は、名酒、加賀の井の造り酒屋。元々は本陣だったとのこと。
この店は、僕の祖父も贔屓にしていて、東京出張の行き帰り、糸魚川での乗り換えには1本早く出て途中下車してこちらに立ち寄ったそうだ。


時間が少し遅く、お客はちょうどはけたところ。
勘弁を願って店内を少し撮影。


店内にはなぜかクラシックカメラも展示されていた。どうも、商店街の企画らしい。
小上がりで中庭に面したところに座る。囲炉裏にも、炭が入って香りと温かみを伝えている。チンと炭の爆ぜる音がしたところで、天そばと、いよいよ季節に入った鴨蒸籠を注文。
ゆるやかにジャズが流れている。このところ、蕎麦屋にはジャズが多くなった。もっとも、彼女に言わせると僕が聴くようなものと違って優しいとか。

時間が緩くて和むなあ。

このところの僕はちょっと走り過ぎている。風が動かないような一日も必要だ。

やってきた。鴨は絶品。越中に入るとこんな美味いものがなかなかメニューにない。糸魚川にくる理由になるので、それはそれでうれしいことだ。
ああ、うまい。そばをゆっくり食べる奴などいないが、山歩きのようにてきぱきとそれでいて、ゆったりといただく。
ご馳走様。