大渚山@小谷村

昨日の夜までどこに行こうか決めていなかった。少し標高あげても大丈夫かなと、もし、ゴンドラが動いていれば五竜遠見からこと小遠見山でもと思ったが、営業は6月になるとのこと。
じゃあ、南保富士か、負釣山あたりにするかなどと考えながら、朝起きてから大渚山もいいなと。先週は戸倉山だから、同じ山塊で少し標高を上げる。心配は、雪だけど、以前の山行録などを見ていると5月には雪が落ち着いていて剣呑な雪渓はない様子。往復3時間を見込んで、山田旅館に3時以前にはいればお風呂も大丈夫なので、そのあたりを見込んで出発。
国道を離れて小谷温泉に向かう途中山が見えた。うーん、ちょっと雪が多そうだ。鎌池まで来ると、稜線の雪がはっきりしてきた。鎌池の少し先で、「この先通行止め」の看板。いけそうな感じがするが、ここから歩いても大したことあるまいと約15分間、林道を歩く。通行止めは、おそらく平岩に抜けられないという意味に違いない。
新緑が美しい。

ブナの新緑ほど、そして、残雪のコントラストほど美しいものはないと僕は思っていて、とにかく、風に吹かれながらこうやって眺めているだけでもう充足感でいっぱいなのだ。雪がひどければ、帰ればいいし、鎌池でも見て回ればいいだろう。
写真の人がたくさんいる。僕は下手くそでなかなかうまく撮れない。

手前の水たまりの碧をきれいに出さないといけないのだろうなあ。
登山口は、湯峠。駐車場には2台のクルマ。やっぱり停められたんだな。でも、まあ、ここまでも悪くない。
湯峠の手前から見上げるとこんな感じ。

稜線の雪と登山道がどうなっているかというところか。

さっそく登山道の入り口が雪でふさがっている。ブナの林を少しずつ上げて行く。それほどの急登もなく、着実に歩を進める。倒木もあったり、雪を渡ったりもあるけれど、このまますんなりかなと思っていたら、少し長い雪渓に出た。急登で上が見えないためにどこまでかがつかめない。とりあえず進んでみることにしたが、キックを入れながらの登はん。照り返しがきつく、日焼け止めが汗で流れ始めた。
上から人が降りてきた。雪渓の様子を確認すると、ここを上り詰めれば、すぐにゆるくなる、そこで頂上と言われ、じゃあと歩を進める。足を滑らせれば滑落というほどではないが、すぐ下の木にぶつかりそうで、それにスキーでも急斜面に含まれそうな傾斜で、しばらくぶりの雪の壁は少々怖い。
10分ほど登ると傾斜が緩くなり、山頂が見えた。三角点のある東峰だ。崩落しそうな雪の塊を慎重に渡り切って、山頂へ。どうやって下ろうと頭の中はいっぱい。湯峠から1時間ちょっと。その割に、緊張感が高まっている。
眼前に大きな雨飾山。昼闇山、裏金山、金山、天狗原山、妙高の先っちょ、黒姫山高妻山、戸隠とパノラマが広がる。白馬方面は雲がかかるも、白馬乗鞍、雪倉、朝日、長栂、五輪山、黒姫山などが見渡せる。海は霞んでよく見えないが、先週登った戸倉山が足元に見える。

先行者と話をすると、雨飾に向かったが荒菅沢で雪崩が起きて、それで怖くなってこっちにきたという。なるほど、まだまだ雪が多そうだ。西峰にある展望台側の方が虫が少ないという情報を得ていたので、雪の原を渡る。クロカンでもすると気持ちよさそうだな。

展望台はよくできていて、1階は部屋になっている。でも、今日は雪の上が気持ち良さそうだ。

午後1時前、山頂を出発。いよいよ下りにかかる。雪渓をどう乗り切るか、心配は尽きない。彼女には、軽アイゼンを付ける。
すぐに雪渓の上部。雪が緩んでいる。谷に大きな雪塊が転がっていて雪庇崩落を感じさせる。一歩ずつ気を抜かずにおりていたが、雪渓の縁が急に凹んだ。やっちまったと思ったが、どうやらストックで支え切って、ストックは不気味に歪んだものの怪我もなく乗り切れた。気を付けなければ。
傾斜はそこから急激にきつくなる。雪だけならいいが、木の枝の間を抜ける必要があったり、時々、トラバースも出てくる。アイゼンなしの僕はトラバースがやっかいで、そこらにしがみつきながら何とか乗り切る。
雪渓の下部は比較的緩やかでグリセードを楽しむ。思うほどには苦労せず、何とか乗り切る。
ほっとしたところでカメラを取り出し花の写真。

ショウジョウバカマみたいだが、かなり小型。なんていうんだろうな。
そこからの下りはあっという間。下山してみると、カメラのレンズプロテクターがない。モノの損失はあったけれど、とにかく無事の下山を喜ぼう。
クルマまで戻って、山田旅館へ。何度かふられたが、ようやく30年ぶりにお風呂にはいることができた。

江戸時代創建のものらしい。文化財になっている。源泉は、浴槽のすぐ裏にあって、そのまま湯船に落ちている。洗い場には、水の蛇口しかなく、お湯は湯船のものを使うのだ。石造りの浴槽は、伝統的な湯治の風情を残している。少し熱めのお湯はいよいよ体に沁みて、苦味のあるお湯を飲むのもよい。数年前に、ちょっとエッチな感じで若い女の子が湯治を楽しむドキュメントのシリーズがあって、そういうのにもいいなあと妄想を広げていた。玄関先に、田中冬二の詩の石碑があった。よく似合う。
小屋の前にスキー。

この板を見ただけで、ここで何が行われているのかがわかるよね。
たっぷり浸かって帰途につく。山の風がすっかりあっという間に過ぎ行く春の深まりを教えていた。
あー、山にお礼してくるのを忘れていた。次は、ちゃんと、しっかりと。
帰途、谷の村の佇まいに感動する。土地の姿によく似合って、しっかりとくらしが作られている。どんな人たちが住んでいるんだろう。移り気な人々が次々と価値の礎を見ようともせず生活をくるくると変えていくことに辟易している僕には、たまらなくいとおしく見えた。