神隠し

仕事が変わって可処分所得が大幅に減って、そのうえ、往復3時間半の長距離通勤となって本でも読もうかと思うけれど、新刊は高いし、何しろ往復で1冊読んでしまうのでとても財布が持たない。
それで本棚から本を取り出しては古い本を読んでいる。こういうときには藤沢周平の短編集が気持ちいい。

神隠し (新潮文庫)

神隠し (新潮文庫)

いつもはいらいらすることさえある電車の乗客の奇妙な動きにさえ、その人のくらしを覗いてしまおうとする感覚になる。人が人として人の中で生きるとはそれほどきれいなものではない。正直な生き方の中にも、素直な暮らしの中にも、様々な曲折があって、人はそんなものをまるごと抱えながら、明日に向き合って行く。藤沢周平の描く市井の人々と、一方で権威とか、見栄とか、虚勢で人を疎んじながら自らを偉そうに見せようとしている人々も、それはそれで哀れなものだと受け止めて排除しない藤沢周平の視線に改めて感心するのだ。
僕はダメだな。既成の価値観に縛られたり、物事を問いかけないものを攻撃してしまう。
どんな人も自分を生きているのだ。
そう思いたい。