雉そば清水

山田村に雉そばを名物にした蕎麦屋があるというので、釣りにも行けない休日、そこへでも行こうと出かけた。大変な人気店で、いつも行列になっているという。鴨蒸籠に目がない僕だから、楽しみである。
山田村には、何度かスキーに行ったことがある。ほとんど、富山県内のスキー場に行くことがないので、たぶん、生涯で3回くらい。高校生、大学生、十数年前ってところか。地図を見るとちょっとスキー場とは違う場所らしい。砺波市に抜ける峠にあるのが清水(しょうず)という集落で、そこのご婦人たちがやっている、僕の区分けでいうと「おばちゃんそば」の系譜に入る。糸魚川の琴ざわや美麻村の新行のような感じだ。土地の味わいとして、こういうそばのカテゴリーはどんなものでもけっこう楽しめる。
思うほど遠くなく、それでもお昼少し前ですでに行列。よくよく見ると店内にはそれほどの収容力がなく、じきにいっぱいになることがわかる。そのうえ、店内にはどこかのどかな空気が流れていて、なるほど人気のわりに混むわけだ。
このあたりのソバが実は評判らしい。いいソバが穫れることで、ずいぶんと贔屓にする蕎麦屋も増えてきた。じゃあ、手前で出してみようということだろうか。雉はどうだろう。たぶん、ジビエということだろうが、僕はまた雉にも目がない。
20分ほど待ったろうか。相席でもいいのにと思っていたが、広いテーブルに妻と2人で通された。すぐに、ぶっかけおろしとざる雉を頼む。
「おそばだけでいいですか?」と聞かれ、面食らう。そばを食いにきたのにそんなこと聞かれたのは初めてだ。
メニューと周りを見ると、なるほど、みなさん天ぷらを頼んでいる。天ぷらの盛り合わせが500円ちょっと。いろいろ頼んでも安いのだ。おにぎりもあるし、草もちやおこはを食べている人もいる。
「ええ、おそばだけです」と答えると、釜場から「天ぷらないの?」という声。そうか、みんな頼むんだな。
あっという間に出てきた。こういうのはいいな。すぐに平らげて、10分も座っていたろうか。それでも、そば湯まで堪能して席を立った。待っていたお客さんが不思議そうに見ていたが、蕎麦屋ってそんなもの。お酒でもやれば別だけどね。
おそばはスムーズで悪くない。突出した個性がないのは、この時期のそばなら仕方があるまい。そばの風味が落ちているのは止むを得ない。雉のつけ汁は大変おいしい。焼きねぎも甘さがあって自分好み。おろしがもう少し辛いといいんだが。雪深い季節にもう一度来るか。少しはそばの様子が違うだろう。ネットの感想を拾うと細打ちってことだったけれど、それはそうでもない。あんなものだろうし、それはそれで十分。
まあ、そんなところ。もう少し客あしらいがよくなれば、あんなに混まなくても済むよ。
草餅はうまかった。よもぎの繊維が残っていて、以前、忍野で食べたのを思い出した。