日本海側初!

朝刊で久しぶりに見た表現、「日本海側初」。他にも、「日本海側最大」などの表現もあるが、この奇妙な言い回しには子どもの頃から気になっていた。ということは、ほとんど多くのものが太平洋側、いや、対になる概念が「太平洋側」なのかどうかさえ疑わしいが、日本海側以外のどこかから始まって、ようやく遅ればせながら日本海側にもやってきたという表現で、日本海側では初めてだという偉ぶりようなわけである。卑小な自尊心の保ち方には嫌気が差す。
今ちょうど、時雨の季節で、日本海には重い雲が立ち込めている。そういう土地を暗いとか、遅れているなどという価値の持ち方がもはや随分過去のものだと思っていたのに、新幹線開業を1年ちょっとのちに控えて、まるで昭和に戻ったかのようなはしゃぎ方の中に、またしてもこんな表現が蘇ったかと苦笑しているわけなのだ。
そもそも日本海側とはどこなのだろう。よくはわからないが、相対的な価値に埋没していくことは何よりも嫌いだ。比べた瞬間にその呪縛にとらわれて本来の価値を見失うことは少なくない。
その点、コメダ珈琲が生クリームと表示してホイップクリームを使っていた記事は笑えた。僕は、ホイップクリームと信じて疑わなかったし、そのような食味もあるし、生クリームと書かれていてもそんなものだと思っていたからだ。どうせ生のホイップクリームとか何とかいうつもりだろうと。生そばならぬナマソバのようなものだ。案の定、コメダ珈琲への風当たりは微風もいいところで、高級ホテルだの、ブランドだのに信頼を寄せるのかどうかはわからないが、そういうものに価値を強く持つ人たちの激しい抗議だけが広がっているのである。
もちろん、日本海側で一番かどうかの議論は沸騰しない。どうだってかまわないからだ。
実は、そんな記事を書いたのは朝日新聞だというのも愉快である。そんな新聞になったのだなあとこちらは昭和との違いをしみじみ感じるのだ。