夜桜

昨晩、夜桜を見ていて泣きそうになった。
どうしてだろうなあ。薄墨色の桜がぼんやりと周縁を闇に馴染ませている、そう思った途端、泣きそうになった。
満月だったらしい。
20年以上も前、貧乏学生だった頃、みんなでもう散ってしまった桜の下で飲んだ。学生ではなく、社会人の方ばかりで、いずれも癖の少なくない素晴らしい人だった。
ああ、そうそう。途中、まだ珍しかった歓楽街近くのコンビニで女性下着が売られていて、それを美しいお姉さんが買っていくのを、安藤と見て非常に興奮した。黒だったしね。
そういう記憶と結びついているのか、それでも泣けるとは思えないので、どこか根っこに何かの記憶があるのだろう。
そういや、妹が逝ってしまったのは、4月だった。
祖父は、満開の桜を見て「来年の桜は、」とつぶやき、その年の暮れに白い雪をいただいた山を見ながら眠るようになくなった。その祖父の植えた桜が今も、南保小学校に残っている。


願わくば花の下にて春死なむその如月の望月の頃(西行
桜の下には死体が埋まっている。(梶井基次郎


死と結びついて連想される桜には、ボクらを彼岸に誘う魔力があるようだ。