お前無理じゃないのか

ヤクルトに指名された佐藤くん。
「古田さんに受けてもらいたい」などと申していたので、もしやと思っていたら案の定、古田の退団を知らなかったというのだ。
最近、野球をやっている子どもと話をしていると驚くほど野球を観てないことに気付く。ははあ、こいつのセンスのなさはそんなところに原因をもっているのかと思うのだが、そういうのはどうせプロになるような奴もいないんだろうしとたかをくくっていたが、プロ志望を出すような奴にもちゃんと紛れ込んでいるのだから、この国の野球を<視る力>*1の低下は甚だしい。実際、どんな選手を目指しているのと聞くと、例えば左のシェアヒッティングが持ち味の奴が楽天の山崎選手などとたわけたことを言ってみたりする。こういう現象は、イチローがメジャーに行った頃から顕著で、彼の打席だけが紹介されるような野球の味方が定着して、野球ではなくダイジェストを見ているのに、それで野球を見て、イチローを理解したような気になることや、手っ取り早いリアルらしいゲームの感覚もそこに加わってきた。以前は、雨で野球ができなかったり、理想とするプレイをバーチャルに表現していたものが、むしろ、野球であるかのような錯誤が生じ始めている。そんなことを思っているわけで、ゲームではなかなか表現できない走塁の部分にこそその選手が持っているセンスらしいものの片鱗を見付けるのも少なくない。その点で、熊本工業の藤村を獲ったジャイアンツは確実に体質を変えている。*2
その意味で、この佐藤もそんな奴かとがっかりした。親孝行は、かつて川上哲治監督が淡口のことを「親孝行だからいい選手になりますよ」と評したことがあるのでいいとして、さすがに古田の退団を知らないではちょっと資格審査で弾きたいくらいだ。というのも、古田の退団は、例えば、ロッテ黒木の退団とは違う国民的な出来事だったわけだ。知と理をよく備え、そこに情を加えた希有な存在の知的な捕手は、実は、立派な体格とアスリートとして十分な運動能力をもっていることへの評価を遠ざけてしまった悔しさはあるが、間違いなく、90年代のスーパースターであり、球界再編の思惑をファンの手に引き寄せた意味でも間違いなく球史に残る選手である。その彼が、彼のチームを離れるという報道は一般紙でも大きく扱われ、テレビやネットでも随分話題になっていた。こと、プロに行こうかという若者がその事実を知らない、あるいは、そうしたことに注意をしていないとは、単純に驚いてしまうほかない。佐藤のお父さんが「楽天にばかり興味があったので」などと言い訳したが、小橋の年内復帰は難しくなったなどの話ではない。また、三沢がGHCを守りきったが少し衰えが見えるという話でもない。ましてや、ドラフトの制度を理解していないはずもなかろう。
もったいない。ヤクルトは以前からすばらしい高卒の人材をたくさん潰してきている。酒井もそうだった。荒木はまあ、才能程度か。ヤクルトで10年活躍できる選手はそうたくさんいないのである。石井や高津は稀な例だ。五十嵐も結局クローザーになれなかった。何か理由があるのだろう。乳酸菌が野球選手には向かないのかといった噂もあるし、スカウトがはからずも口にした「家族的な雰囲気」がそうなのか。
全くがっかりで、どうでもいことなのだが、たくさん書いてしまった。
正直、「プロになったので」という発言で、こいつはドラフト制度を理解していないし、入団ということ、契約ということを理解できていないのかと疑っていたのだが、どうやらそうらしい。球界の未来はそう明るくない。それも、ファンが、あるいは、野球選手たちがどんな意志をもつかにかかっているような気がしてならない。
プロ野球がプロレス化していくってこともあるのかな。構造や基盤が違うんだけど、メディア的にはあり得るのか、というのか、ずいぶん、そんな感じになってきた。

*1:二宮清純のことば

*2:もっとも、ジャイアンツはこういう選手を数多く取りそろえている。それは彩りであって、中心選手にはなかなかなれないという状況もある。何人○○のイチローがいたことか。