はくのりで

はくのりにはテレマーカーが多い。先週の土曜日にも数人おられてみなさんとても上手に滑っておられるし、最近のテレマークらしい道具を使っておられる。それはもうテレマーカーとしてなかなか板に付いているのである。
そのなかをボクと息子がよたよたと滑っている。
息子は久しぶりのスキーに加えて、初めてのファットがどうもうまく踏めない。ついエッジをきかせようと板を立ててバランスを崩している。ボクは、革靴に、チリなどという今時時代遅れのビンディングを160センチのアルペン板に付けている。息子の板も160センチ。オフピステの影響で長めになっているので、このごろはあまり見かけない展開ではある。
少し前にお上手そうに颯爽としたテレマーカー。年頃はボクより少し上か。しきりにこちらをご覧になるので何か伝えたいのか、フレンドリーにあいさつでもしたいのか、何となく視界の中にある。200メートルくらい下におられるので、特に目指すわけではないがそちらに滑り込むと、ボクが近づく寸前に滑り出して行かれる。でも、わりにすぐに止まって、結局、ボクが追い越す。何となく目線が合って会釈するが、目線を外さず、それでいて挨拶を返すわけでもなく。立ち止まって意図を計りかねていると、今度はボクの前を滑りすぎていく。そういうことが何回か続いて、そのうち、お仲間らしい4,5人のテレマーカーと集まってなにやらお話。ボクと息子に目線を向け、何かを離している。しばらくすると、見せつけるわけではないのだろうが、少し横をやはりさっそうと滑りすぎていく。それで、ボクらが滑り出すとまた、いつの間にか抜かれる位置に立ち止まって上の方からこっちを見ておられる。そのうち、最初に出会ったテレマーカーの口元に笑みがこぼれた。
そのときは気づかなかったが、今日になって風呂に入って思い出すと、あれは嘲笑だ。ままならぬ息子やアナクロのボクをアザケテイル。そう今頃になって気づいて悲しくなった。
もう、テレマーカーだからと同じメンタリティを共有できていると思うのは、フライフィッシャーがそうでないように、全く誤りなのだと思う。
いや、そう思ってはならない。そうした思いこみを排除すべく、彼のテレマーカーはボクに普通に接してくれていたのだろう。そう思おう。
でも、何だかなあ。あの笑顔は残るぞ。あのじわじわ近寄り、離れていく様子は引きずるぞ。中学校に入学して、何がどうなったのか、多くの友人たちがボクから目線を避けていたあの1階の廊下を思い出すぞ。やがて、廃校になったあの校舎に、ボクは仕事の関係で見えることになり、あの廊下の、あの場所で、最も信頼していた友人がふざけ半分で向けた流し目調の目線を思い出し、涙があふれた。
忘れよう。こうやって書いて、忘れてしまおう。
どうせボクは「へたレマーカー」なんだ。