その場所へ

週間ベースボールのドラフト特集のスカウティング記事を読んで、どんな人が指名されたのかを見ていたら、あれっ、ヤクルトの1位中沢って富山商業の中沢じゃないか。3年の夏の甲子園、初球を左打者のインコースに141キロで投げたまっすぐには驚いた。いいバランスの投手だったが、力を付けて1位指名とはすばらしい。他にも富山県の選手が何人か指名された。特に、近畿大学の荒木は逸材である。ヤクルトのカラーにもよく合う。活躍を期待しよう。広島の浅井が引退してからは、スピードスター紺田くらいだから、一軍で出ているのは。
ジャイアンツの竹島イースタンで一勝上げたようだけど、どうなんだろう。ソフトバンク藤井もどうしているのやら。ロッテの西野は育成枠だけに結果が欲しくなる頃合いだ。プロは厳しい。あれだけ突出した連中でさえひいひい言いながらしがみつくのがやっとなんだから。自分の特徴を見いだして、」そこに磨きをかける以外にないようだ。しかし、そこにスタイルを作ってしまえば、今度は場所をもてる。そういう風になるには、才能とか、努力もあるが、指導者に巡り会うとか、偶然に近い場面がやってくるとか、そういうものも必要なのだろう。
松井秀喜がメジャールーキーイヤー以来のワールドシリーズを戦っているが、あそこで手のひらからこぼれ落ちたものを必死で拾い集めているように思えてならない。
今日のゲームで、ペドロ・マルチネスから決勝ホームランを打ったが、かつてマルチネスレッドソックスに在籍していたとき、リーグ優勝決定戦で同じマルチネスからツーベースを打ち*1を打ち、そこから生還するときのあのジャンプしてのファイティングポーズを思い出した。ああ、彼はこんな野球がしたくてその場所にいったのかがよくわかった。おそらく、日本でプレーしていれば、今頃王の通算ホームラン記録がどうのこうのという季節にもなっていただろうに。そんなものよりも、沸き立つもの。滾るものに賭けたらしい。そう感じた。そして、「裏切り者と呼ばれても」とさえ言った彼の決意を心から励まそうと思った。
ワールドシリーズの第6戦。はっきりとしたシチュエーションを覚えていないが、ここで松井が打てばそのまま世界一という打席。松井のバットはボールの上をたたいた。確かグランドアアウトではなかったか。グラウンドアウトキングの面目である。そのまま、ヤンキーズはあと一歩届かず、それきり、もう何度でもその場所へ行けそうな気がしながら、昨日まで立つことすらなかったのだから。松井はその思いをずっと引きずっているのかも知れない。ボクは、そういうものを抱え続けるプレーヤーがたまらなく好きなのである。
したがって、ヤンキースタジアムの満場のブーイングに苦笑いして、ちょっと立ち止まってそのブーイングを楽しむように顔を上げてからダッグアウトに消えたマルチネスも好きだし、ここは思い切りブーイングでしょうと相手投手を称えたヤンキースタジアムの観衆も大好きなのである。
さて、この国の日本シリーズは何を見せてくれるのか。奇妙な前兆がある。毎年、日本シリーズは舌戦から始まる。虚々実々の駆け引きが、シリーズ前から漂い始め、今、どうなると心配されているダルビッシュの動向などまさにジョーカー扱いでどこまでが本当なのか分からない情報が次々にリークされては消えていく。V9時代の諜報戦が今もって支配的だったが、今年のシリーズは、完全にガチンコ。ある戦力と自らのチームの戦い方で作っていくのだという、本当にゲームの楽しみになっている。原と梨田の性格にもよるのだろう。対照的な指揮官だがおもしろい。おたおたしない。自分たちのゲームに引き込むことで勝ち上がってきた自信が漲っている。ブラフもなく、はったりもなく、それでいて全身全霊賭けてプレーで引きつける。ぎりぎり最後の一瞬まで勝ちを捨てない。ボクらはようやく優勝するだけの野球、負けを計算する野球から離脱できそうだ。NOAHの武道館GHCのような、そういう日本シリーズを、いや、長嶋が使うように「選手権」を期待したい。

*1:松井は、先日のリーグ優勝決定シリーズの2塁打で、それまでバーニー・ウイリアムスが持っていたヤンキーズポストシーズンの通算2塁打記録を塗り替えた。