そこらへんクロカン・河原

午後3時になっていたが、どうしてもスキーがしたくて、クロカン板を積んで車で動き出した。どこにしようかと思案したが、グラウンドはやめようと思った。走ることはそんなに好きではない。なんでもいいからトレールの空気が嗅ぎたかった。幸いそこら中雪があって、場所には不足しない。ところが、ザックを忘れたことに気付く。水もなく行動食もない。そのうえ、綿の下着を着ている。山は無理。そこで河原にした。
上流に向かうと朝日岳がきれいに見えて、下流に向かえば富山湾に沈む夕日を眺める小川沿いにした。車は、たいてい、新川小川橋のたもとに停まる。ここには融雪装置が付いているので、ちょうど車2台分空くのだ。案の定、その通りである。
板は、エッジの修理を済ませたハーフエッジテレマーク板。一番のお気に入り。靴は、クリスピーのスタンダードという最初にテレマークを始めたときの靴。もう10年以上も使っている。革靴はメンテナンスが気持ちいい。今年もよくフィットしている。この組み合わせで、スキー場のグルーミングバーンを滑るのもおもしろい。
朝日岳は雲の中。雪は上々。ラッセルするほどでもなく、今日の気温が適度に締めてくれたようだ。滑り出しは堤防から。ときどき、下る。テレマークポジションを確認。少し後ろ目に加重する感覚を大切にしている。下りを考えてトレースを作る。うさぎ、イタチ、それと鳥だろうか。頭だけ出した枝にからむように足跡が工作する。右手の田んぼにも思い切り走ったようなあとが幾筋も見える。連中は道をちゃんと覚えているのか、用水をまたぐ場所に躊躇なく直行している。きっとこのあたりに住んでいるやつなんだろうな。姿を見たことはないけれど。
橋の付近は風が強いが、堤防を少し降りると急激に穏やかになる。
やがて、岩崎の橋に来る。ずっと昔、ここで釣りをしていたら橋から声をかけてきた人があった。その人の面影を感じながら橋をくぐる。右岸は堤防が途中で切れるため上の集落まで通せない。こちらの左岸も、用水の取り入れ口が行き止まりで、そこから先の集落には一度スキーを脱ぐことになる。そこらが限界かと思いながらゆっくりと歩く。少し背中が冷たくなってきた。日没も近い。引き返しのポイント近くで、修理したのとは別の場所のエッジが浮いてきた。ここまでと思った瞬間山が光った。雲間から出てきた夕日が山に映えているのだ。雪の山が赤く染まった。その山を見ながら引き返す。板によく加重して、ストックワークをリズミカルに、できるだけ左右のバランスを取りながら歩幅を大きく大きく。息を大きく吐きながら。風景がゆっくりと動く。揺れる。
橋の下をくぐり堤防に上がると、今まさに沈もうとする夕日が集落の家々の間に大きく、ある。あたりの景色が赤く、暖かく染まる。海はすでに青黒く冷え、冬の波が牙を控えて佇んでいる。この土地に生まれて良かったと思った瞬間、少し涙ぐんだ。
日没と車への帰着はほぼ同時。何か気持ちを表したくて、コンビニでビールを買って、自宅の駐車場で飲んだ。温泉にも行けばよかったかな。