いやあ、飲み過ぎた

久しぶりである。朝起きると、そのまま眩暈。まるで、数年前倒れたときと同じ感じ。宿酔いである。いやあ、昨日は、実際飲み過ぎた。
町内の新年会。ボクにも役員が回ってきて、そういうこともあるのでしっかりと注がれたものを受けていたし、途中で芸者さんが勧めるままに芋焼酎をタンブラーで飲み始めた。これがけっこうおいしい焼酎で、勢い込んで2杯もやらかした。町内会長はジャズが好きで、ご自慢のリスニングルームを持っている。今夜、こいと誘われる。しからばと返事をするが、1軒行ってからにしようと、ジャズドラマーがやっている店に行く。ボクのジャズはこのマスターがやっていた喫茶店から始まった。
横町に入ると、コートを脱げない店内。お好み焼きがウリのはずなのだが、錆び付いた鉄板と、店内に散りばめられたジャズのレコード。むろん、LP盤。ちょっと説明しにくいのだけど、スピーカーも一体になった足の付いたステレオ装置。アームは樹脂でできている。これが、太く艶やかな音を出している。エイジングというには古びているのだが、店に似合った音が出ている。隅には、シンバルとスネア。
町内会長とボク、そして、同級生で幼なじみのAちゃん。彼もまた、ジャズを愛し、カメラを愛し、いや、機械一般を愛し、そして、最近では山も愛している。MSRのデナリを使っている人だ。3人でマスターとしゃべっていたが、一向に注文を取られる様子もなく、勝手にビールを持ってきた。一体、これがいくらかもわからない。ボクは目の前に飾ってあった角トリスをそのまま飲むことにする。ストレートではない。そのまま。その方が感じが合っている。
マスターは興が向いたのか、スリー・ブラインド・マイスレーベルのレコードに合わせてドラムを叩く。生音はいいものだ。すっかり、波長がジャズになってきた。小上がりに並べられたレコードからダラー・ブランドの「アフリカン・ピアノ」を発見。

アフリカン・ピアノ

アフリカン・ピアノ

感激してすぐにかけてもらったが、マスターも町内会長も「えー、こんなのがジャズ」なんて言っているが、町内会長はともかく、マスターは満更でもない。こんなレコードかけてくれと頼む奴がそう何人もいるわけじゃない。
気持ちのよいトリスである。こんなにスムーズな酒だったかな。タンブラーで2杯飲んだ。勘定は、よくわからないが、2000円。ついに、お通しもなかった。準備していないのだろう。ジャズ喫茶みたいなものだな。
そうそう、その話もしていたんだ。「ニューポート」「KENT」「ワークショップ」なんて店のことを話していた。「ダンモ」っていうジャズドライブインもあったなあ。どうなっているだろう。国道沿いだ。
店を辞して、会長宅になだれこむ。ご自慢のシステムを堪能するのだ。
宿場の職人町の表通りにある旧家だが、奥座敷を改築し、薪ストーブを設えた。その有様や、ホンダの2シーターばかりを乗り換える佇まいを知っているだけで、この2階にあるものの素性が知れよう。案の定、分厚い扉の向こうには、巨大な自作のエンクロージャーがあった。セロニアス・モンクコルトレーンの未発表テイクがコルトレーンの息子によって発掘されこのたび世に出たCDをかけていただく。いいよ、これ。そこに、コルトレーンがマウスピースの隙間からつばを吹いて立っている。
ワインが出てきた。デキャンタに移してワインを飲むのは、レストラン以外では初めてだが、Aちゃんは詳しい。後からまた旨くなったりするんだよと、エンスーはどこにでもいる。
幾枚かのCDを聴かせてもらった。体中の細胞が沸き立つような感触を残して、夜半、家を出る。冷たい空気にどうやら酔っていることを忘れていた。酒が効きだして、寝床につくと、世界は歪み始めた。