木村コーチ

ユーティリティプレーヤーというカテゴリーがあるわけではないが、もし、そんなのをこしらえたら必ずそこに名前が加わる選手というのが何人かある。実のところ、飛び抜けた才能をもったプレーヤー以外は、プロの世界に生き残れない。どうしてもしがみつくのだとすれば、自らをユーティリティーといえば聞こえはいいが、「万能」ではなく、「間に合わせ」になる以外にはない場合も出てくる。それが、木村だったりするのは異論がない。こういう選手はいくらもあった。いつ、解雇されるかわからぬ状況で、それが今日か、明日かと冷や冷やしながら今出来ることに向き合って、野球にかじりついてきたのが、ユーティリティーの称号だった。ゆえに、ユーティリティープレーヤーの列伝を描こうとすれば、挫折や悲哀に満ち、それ以上に脚光を浴びたときの賞賛の落差は大きい。
ともあれ、入団してすぐに任意引退になった選手が、やがてスイッチヒッターとなり、投手以外どこでも守り、その能力故日本代表にも選ばれ、ゲームに欠かせない人材として認知される頃に引退の潮時を迎え、これからおそらくプロ野球選手の80パーセントを占めるはずの「間に合わせ」選手の、その限られた能力を絞り出す仕事に立ち向かっていたときに、まさか、ノックバットを持ったまま意識を失う日が来るとは思わなかった。
悲しいというよりも悔しい。
三沢の死にかぶる光景がグラウンドにあった。アスリートの現実を見た思いもある。
合掌。レジェンドは続く。必ず。そんな気がしてならない。