静寂のゲレンデ

晴れ上がった日曜日。白馬連山の姿が見たくて岩岳スノーフィールドへ。昨日、積雪があったということと、先週から一日券が2500円になっていることもあって、けっこうな人。ちょうど、学生選手権が行われていて、コースもかもしかだけでなく、サニーバレーの一部も閉鎖中。それでも、一応、ダウンヒルもやっていて、そういう臨場感がある。ずっと昔、ちょっとの間だけレースをしていたことがあって、他にスポーツとか競技とかを経験していないので、妙にざわつく。そこらに立てかけられた210cmの板や履きつぶす程になった激しく損耗したスキー靴に、いよいよそそられる。
ただ、眺めているのも退屈で、やっぱり足がウズウズして山頂部に移動して滑り始めた。さすがに春のゲレンデで、しかも、ここのように360度にコースが広がると雪質の違いが激しくそれはそれで面白い。日陰コースにはノートラックが出現していて、ボードの人が押し寄せている。
日差しがあるのに、景色は晴れない。次第に曇ってくるようだ。残念ながら青空を背景にした白馬連山は見られまい。リゾートの入り口でカメラを構えていた人もどこかに行ってしまった。
スキーの方はずいぶん乗れてきた。板と靴が軟弱に思えるから割に踏めているのだろう。まあ、ここまでだろう。これ以上には、そうそう上手くはなれない。これはこれで適当に快適。
今日は、東日本大震災から1年。スキー場でも、午後2時46分に黙祷するという。山頂部とベースを行ったり来たりしていたが、第5ゲレンデでちょうどそんな時間になった。リフトの乗り場では、多くの人たちがリフトに乗らずにそのときを待っている。待ち兼ねたように風花が舞い始めた。あんなに晴れていたのに天が泣き出した。その時間、スキー場が全く静まり返った。みんなゲレンデに佇んでいる。さっき出会ったカモシカの親子の後ろ姿が、何かに映っているように思えて、急に切なくなってきた。まだ、何も終わっちゃいないんだと思った瞬間に涙があふれて、強くなった雪が見えなくなった。黙祷の時間は終わったが、ゴーグルで隠れた涙が乾くまでそのままでいた。
偲ぶことしか、祈ることしかできないか。切なさは、それに由来するのかもしれない。
黙祷の時間を境に山頂部は風吹いてきた。多くの人が下山し始めた。さっきまでと変わっていない時間が流れているように思えるが、ひむかしの空はまだ青さを残していて、ほっとするような淡い光を漂わせていた。