酒井のおばちゃん

小さい頃のボクは、何かと忙しい実家で面倒を看てくれるものがなく、酒井さんちでよく遊んだ。遊びの記憶はほとんど酒井さんちにある。その家の娘さんは今ご近所のおばちゃんになっているのだが、未だにボクのことを「ボク」と呼んでくれる。
酒井さんちの通称「おばちゃん」もボクのことを大事にしてくれていた。
気軽に声をかけてくれるだけでなく、自分の子どものように思っていてくれた。ボクはそう思っている。率直な口のききかたは、本当に愛情たっぷりだった。
そのおばちゃんが亡くなった。
亡くなって初めて「はる」という名前だったことを知った。おばちゃんはずっとおばちゃんだったものなあ。
今日が葬儀だったんだけど、いわゆる読み上げ焼香にボクの名前が出てきた。ありがとう。おばちゃんの目の前まで行って、お別れをさせてもらったが、案外、ちゃんとあいさつにこいとおばちゃんが最後の行儀を教えてくれたのかもしれない。
おばちゃん、ありがとう。今日だったら、あの世も一番近くにある。あんまり歩かなくていいよ。
死にゃあ、どっだけ遠てもいっしょやっちゃ。
おばちゃんならそう言うだろうね。