悠々として急げ

取材から帰ってBS-iをいれたら「悠々として急げ」をやっていた。
開高健がイギリスで釣りをするドキュメンタリーである。ずっと以前、そう丁度開高健が亡くなった直後に放送されたはず。開高健最初のフライということでそんな風景を憶えている人も少なくなかろう。
印象的なシーンがいくつか。
ひとつは、倫敦でフィッシュ&チップスを食べるシーン。エロ新聞に包んで食べるのがいいのだと、おねーちゃんの大きなおっぱいのあたりで包んで食べる。しかし、「記憶が美しくした」といい、それほどうまくもないフィッシュ&チップスを囓る。囓りながら、「知恵の悲しみ」をつぶやく。知ることで楽しめなくなるのだ。
もうひとつは、釣れない釣りを延々と繰り返す姿。スペイキャストを繰り返すが、魚影のない川で魚などかかろうはずもなく、それでもなお、キャストを続ける。しかる後、おびただしいカゲロウのハッチ。それでもなお、いよいよ、サーモンフライを投げ続ける。
ハウス・オブ・ハーディー、トワイニングスなど、変わらぬものの姿に、頑固だけでは済まされない伝統を見た思いがする。鱒を徹底的に世界中に放流しまくったイギリス人は、たぶん、おそらく、鱒釣りができないような場所は植民地としてもふさわしいとは思えない、そう思っていたはずだ。
何かで聞いたが、そのようにして放流された鱒が現在も天国のように暮らしている土地がブータン王国だという。