池波正太郎

池波正太郎の作品に欠かせない彩りが食である。「剣客商売」で時折に披露されるものは実にうまそうである。「食卓の情景」が名作で、この本はそれの続編のような造り。

散歩のとき何か食べたくなって (新潮文庫)

散歩のとき何か食べたくなって (新潮文庫)

江戸生まれの人はことのほか、そばが好きだ。特に、散歩にはちょっとたぐるようなそばが似合う。
この本には、一茶庵、上田の刀屋、並木藪蕎麦、神田の藪、蓮玉庵などの蕎麦屋が出てくる。いずれも表情のある良い店である。
入れ込み、小上がり、小座敷などという佇まいをボクらの生活はすっかりと忘れてしまっている。
ところで、池波は「蕎麦や」と表記している。ボクは文化的な背景を描くときには「蕎麦」、単純に食として食べている、まあ、スーパーにも売っているものは「そば」、作物としては「ソバ」としているのだが、ソバヤは「蕎麦屋」と書いてきた。仕舞屋(しもたや)などの屋はそのまま家屋などの建築を示しているが、ソバヤのヤはもう少し広く感じられ、亭主だの店員だのお品書き、岡持まで示しているようにも思える。それゆえ、「蕎麦や」としているのではないのかと勝手に詮索している。とりあえず、その表記を倣うのはすぐには止そう。もう数冊読んでからにしよう。連載の編集者の気持ちかもしれないのだ。
昭和の中頃、洋食がこうもうまく思えるのはどうしたものか。