剣客商売

剣客商売〈5〉白い鬼 (新潮文庫)

剣客商売〈5〉白い鬼 (新潮文庫)

この鬼は切ない。子に罪はないのだが、何がそうさせるのか、何かをおかしくしてそのままふくらませていくと、ずれが悪意になって表現されていく。心の病とはそうしたものか。いずれ、行動で表現されないことには何もなしえない無害なものであるのに、なまじ剣という狂気に表現されてしまったことで、それらは悲劇を生んでしまう。
鬼が好む上州蕎麦の記述が興味深い。

くろい太打ちの蕎麦を、生姜の汁(つゆ)で食べさせる。

彼の出自をたぐる唯一合理性を欠いている「好み」である。その一点だけ何かにつながっている。その何かは、残念ながら、自覚されない。それが、不幸である。