吉井妙子

中嶋悟のおっかけをしていた吉井妙子の本を読み終えた。じっくり読むわけではない。ボクの場合、そこらに本が散らばるようにおかれていて、適当にめくるのだが、「還らざる季節」と名付けられた中嶋F1最後の年のルポルタージュだが、読まなければよかったと思うくらいに読後感が悪い。
F1やプロレスのおもしろさは、パドックやロッカールームでどんなことが起きていようが、その場に現れたパフォーマンスに物語を付与できることだろうと思っている。その点では、釣りにもよく似ている。パフォーマンスに、その背景が影響することはままあり、いくつかのパズルのピースからそれを想像するのも愉しい。
だが、吉井妙子のルポは、中嶋を描くために中嶋を書いている。つまらない。中嶋と彼女のやりとりなど、中嶋の苦悩を描くには全く不釣り合いである。挙動の優れぬマシンを衰える体力で補いきれなくなっている中嶋の懊悩は誰かにパドックの、あるいは、オフサーキットの逸話として描いてもらうまでもなく、多くの人々がそう感じていた。
対幻想もいいところである。
見てきたこと、聞いてきたことにこそ真実が含まれるというジャーナリスト的なドクサにまみれている。見てきたこと、聞いてきたことを乗り越える言説にこそ、ジャーナリズムの粋があるとボクはずっと思っている。
105円の値札が、よく似合う本であった。