契約

松井秀喜の去就が注目されていて、というよりも、ヤンキーズが松井をどう扱うのかが注目されていて、エージェントのテレム氏がアピールのためのコメントを出した。なかなか作文としてもよくできていて、その分、どことなく子ども向けの偉人伝の一節を読むようでもある。
ニューヨークを最初に訪れたとき、最初にグランドゼロに向かった逸話が盛り込まれていて、懐かしく思い出した。このことを記者団に話したとき、エージェントのテレム氏は嗚咽せんばかりに涙ぐみながら、この選手には活躍して欲しい、いや、こういう選手が活躍する場所でなければならないといった記憶がある。ニューヨークの痛みを分かち合うことがなければ、ヤンキーズの選手にはなれないと、そんな決意が見て取れた。野球人としてよりもまず人として善くあれという松井のスタイルは、案外北陸の田舎生まれがもつ心情かも知れない。
そう思ったのは、阪神タイガースに入団した城島の会見からだ。マリナーズで出場機会がなく、十分にやれるうちに日本に戻ろうという判断は間違っていないと思う。素晴らしい選手がパフォーマンスを出すことなく、海外の田舎チームに埋もれてしまうことを、ボクはとても残念に思っている。マリナーズは、日本人にはとても馴染みのある球団だが、アメリカの最も端にある小さな球団だ。グリフィーもロドリゲスも、ジョンソンもみんなここから出て行って大きくなった。エドガー・マルチネスが賞賛されるのは、そのチームで最高のDHのキャリアを終えたからで、その賞賛もシアトルではともかく、アメリカ中が沸き立つほどではない。イチローがよく知られているが、その知名度は、例えば、今野球をやっていれば見るよという人ならロッテと言えば西岡くらいのイメージであって、野球をよく見ている人にはオリックスの坂口ほどのものじゃないかと思っている。*1
城島というキャッチャーはお山の大将だと、野村は言った。ピッチャー的であると。それゆえ、キャッチャー観を変えるほどのパフォーマンスがなければ、メジャーの監督には受け入れられないというのが一般的な見方だし、逆にその性格がダイエー時代には見事に花開いた。古田とも違う形で、キャッチャー中心のチームが球界に君臨していた。その城島が帰国するというならきっとおもしろい野球になるだろうし、それも阪神ならば、城島という因子がうまく肌合いをそろえていけるのかどうか心配は尽きないが*2、また、新しい展開が見えそうだ。日本の精密な投手との付き合いで、キャッチャーとして磨きがかかる、いや、錆がとれる部分があるはずだ。そう思っていた。
しかし、会見から飛び出したことばは、よほど出場機会に飢えていたのだろう。全試合出場、できればフルイニングのことばだった。野手のことばなら、それは、ある。ロートルではないが、ベテランの領域にあるキャッチャーが自分の気持ちとしてそう思っている分には一向に構わない。しかし、阪神にはリハビリに励む、高齢ではあるが10年間阪神を支えた矢野がいて、今年懸命にはいつくばるような努力を重ねた狩野がいる。最初から彼らを逆撫でするような言い方に聞こえた。ボクには違和感たっぷりだが、それがアスリートであって、そのことを口に出すのに何のためらいがあるのかというのもよくwかる。やはり、彼はお山の大将なのだと理解もできる。
一方、メジャーから帰国した選手は一様にぱっとしない。メジャーで10勝挙げる投手が、日本で抜群のパフォーマンスを見せるかというとそういうわけにはいかない。レベルや程度の差があっても、満ち潮の状態と、そうでない時期がある。ロッテを変えるようにさえ言われた井口のていたらく。何かがぷっつり切れていたとしか思えない。岩村が帰国しても、もはや、3番サードの選手ではない。WBCで見せたように、9番セカンドなら超一流のパフォーマンスを見せるが、彼が日本で中軸を打ったところでスターにはなれない。城島とてWBCでは何とか格好がついたけれど、並みいる一流の投手をリードするキャッチャーではなく、ゲームが壊れそうなときに適当に手当てしながら傷口をほころびさせないように投げるブルペンの相手役だ。しのげば御の字。裂ければ下を向いて土をならすだけ。WBCの緒戦では明らかにその弊害が見て取れた。その選手がフルイニング宣言である。
イチローや松井がしばしば口にするのは、自分でコントロールできないことには関心を払わないという態度である。完全にそうであることが難しいが故に敢えて口に出すのだろうと思うのだが、怪我や体調、マスコミの論調だけでなく起用についても、多くの出場機会のあるイチローでさえそのように話す。自分は自分が果たすべき場所で最大のパフォーマンスが発揮されるようにベストの準備を心がけるだけ。そのことばは松井によって見事立証されているのだが、そのようにふるまう人々と、先に言うだけ言ってから何とかしていこう、高い目標で自身を奮い立たせようというやり方には善悪も良否もないとは思うのだが、後者には二流の印象を感じてしまう。大学進学のためドラフトを拒んでいた奴だと、最近、思い出した。どこか最後のところで弱い内海*3もそういやドラフト拒否した奴だったか。
城島がフルイニング出場して、2割7分、80打点。ホームラン27本。投手防御率3.68。そんなところか。まあ、3位。
ここまで書いて気づいた。そうか、出場イニングのインセンティブがあるのかも。要求した雰囲気はあるな。やっぱり、仮名手本と言うことか。
付け加え。ジャイアンツの竹嶋は、育成で再契約。まずは、プロの世界に残れました。
さらに、付け加え。皇后陛下が松井の膝のことに言及したというので、松井から謝辞が返された。これもなかなかないことだな。

*1:だから、イチローにはビッグチームでプレーして欲しいのだが。彼には全くそのキャリアがない。

*2:具体的には、金本あたりとはどうなのだろう。あちらは落日の鉄人だが、連続試合出場の記録があり、しかも、これまで間違いなく阪神を牽引してきた

*3:大好きなので日本のエースになって欲しい