サクラマス本

サクラマスがヤマメの降海型だと知っている人は、実はそう多くない。案外、子どもの方がよく知っていて、水産試験場なんかの見学や内水面漁協の普及活動などもあるのだろう、案外、あっさりと答える。むしろ、厄介なのは、訳知りの大人の方で、いろいろな誤謬が蔓延したままになっている。
降海型の魚としてはサケが圧倒的に有名で、カムバックサーモンなどという活動で、河川の汚れからサケの遡上が絶えてしまった川に再びサケを呼び戻そうなどという活動が行われ、それなりの成果が出たり感動したりするものだから、変な影響を受けて、サケが戻ってくる川が素晴らしいのに、サケが素晴らしい生き物だということになって、サケ以外を下流に見てしまうような風潮もあって、さらにサケが遡上したことのない川にサケを放流して、1尾戻っただの、2尾力尽きていただの、5尾野犬にやられて野犬憎しだのとかまびすしいこともあった。*1
そうしてサケの生態がよく知られるようになったおかげで降海型というとすぐにサケのように暮らしていると考えられるようになった。そのくらいの認識はあったが、この本を読むと、もう少し状況はやっかいで複雑で、思いの外入り組んでいて、抜本的な理念とか政策とかが欠け落ちたまま科学的な調査や研究の都合のいいところだけを拾い集めて言上する連中にいいように振り回されている様子も、どうやらうかがい知れる。
実は、それなりに知っていたつもりのサクラマスだが、読後としては、では、サクラマスとは一体どんな魚だったのかと自らの記録を見直し、再考することになった。疑問符ばかりである。
とりあえず、整理して議論することの大切さを痛感。そうでなければ、サクラマスの議論など成り立たない。
こういう情況本をこの時代に出してしまおうという出版社は、吉本隆明的にいうと「サヨク」である。圧倒的に支持したい。巻末の出版本一覧を眺めると、この出版社が何を伝えたいのかがよくわかる。魚釣って喜んでいるだけでは、ナンにもおもしろくあるまいに。そういうことだろう。

*1:そのへんは朱鷺と同じ。朱鷺だけが素晴らしいということはあり得ない。