糸魚川市おだじまと焼山温泉

冷たい雨が降る一日。糸魚川まで出かけるとまわりの山々は雪。気温は昼になっても4度。午後からは晴れてくるというのに、ずいぶん寒い。
おだじまで、鴨せいろうをいただく。相変わらずうまいそばだ。糸魚川はそばのバリエーションの多い土地で、さまざまな食べ方ができるが、このおだじまのそばが一番体にしっくりとくる。そもそも、うまいもまずいも、好きも嫌いもなく、その土地土地のものを丁寧に食べさせてくれる店が好きなだけだ。正直、まずくて食えたもんじゃないと思ったのは、T市のあるお店だけで、これまで立ち食いそばも含めて、何だか食べにくいなあというのはあっても、まずいと思ったことは一度もない。おだじまのそばはもう体に馴染んで、うまいとか、どうとかいう領域から離れてしまっているとさえ感じるほどお気に入り。
そのまま、焼山温泉に向かう。上早川の集落を抜けるとすっかりと雪。積雪さえあって、時々吹雪く。スキーも考えたが、春スキーで雨やら雪やらは叶わない。おじさんは、ゆっくりと湯に浸かる。
焼山温泉の湯は、数ある温泉の中でも最も好きな湯のひとつ。柔らかく温まる。源泉から少し離れているせいで、湯温が低くなるのだが、内風呂にはそれをそのまま流し込んでいる湯船と、ペレットを使って加温している浴槽と露天風呂がある。どちらもすこぶる気持ちが良く、温度はわずか4度の違いしかないが、この感触の差はまた癖になる。ゆっくりと、ゆっくりと浸かり、浸った。
早川郷の家の作りが気になったが、撮影できるような天気ではなく、今度、ゆっくりと取材したいと感じた。大雪への対処だろうが、合掌造りに近いほどの傾斜をもったトタン葺きの大屋根だが、屋根の角が切り落とされるようになっていて、どうやら採光と雪が落ちやすい工夫があるらしい。興味が湧いたのは、最近、妙高あたりで一般的になっている、大屋根の上に角のように切り立った部分を作って屋根雪を落としやすくする工夫がある。それにそっくりなわけで、何だ、昔からあった知恵なんだと気付いた。

どこかで、そういう伝統が失われて、新しいものに飛びついて結局大切にしてきた風土を損ねているわけだ。雪で潰れているのは、最近の格好をした住宅ばかり。最近増えている密閉度が高く、窓が少ない住宅もエネルギー需要の逼迫した時代にどうなんだろうと思う。そういう家はたいてい屋根にソーラーパネルが乗っている。エネルギーを自分で賄っているエネルギー依存型の住宅というのも奇妙な感じだ。
糸魚川市内で買い物すると、自分の街と売り物が違う。わずか数十キロメートルの間に、日本の東西を分ける文化の分水嶺があるように思えて面白い。今ある国道など、たかだが100年前のものなのだ。
僕らは、もう少し自分たちにいたる歩みを知らなくてはならない。そういえば、焼山温泉が開かれたのも30年前。つい、最近のことである。