塩の道祭り@大町

毎年、塩の道祭りに参加している。昨年は、母を連れて白馬村へ。今年の白馬は、青木湖から北上のルートで、一度歩いたこともあり、大町はどうなんだろうと調べていたら、同じ青木湖から出発して仁科三湖を南下するルート。これはちょうどいいと早速参加することに。
ところが、信濃大町駅前付近で集合して現地に移動し、また、そこに戻るというバスを含んだツアールート。そうすると、車の手配をどうしようと思案。近くの大糸線を使うには不便そうだし(結果的には、その洗濯も面白そうだった)、ゆーぷる木崎から出発地の青木湖までのバスがあればいいのにと問い合わせたら、そういう人もあろうかと、信濃大町駅前発のバスが1台だけゆーぷるに立ち寄るという。それに便乗することにして、僕にしては珍しく6時過ぎに自宅を出る。聞いていたバスの時刻よりも早い出発で、うまくぎりぎりに滑り込めた。
仁科三湖はフォッサマグナの西端にあり、まるで大地を引き裂いたかのような場所に並んだ三つの湖。北から最も深い青木湖。小さな中綱湖、そして、一番大きな木崎湖と続く。それぞれに表情のある湖で、湖畔には別荘や保養地、キャンプ場が並ぶ。最近では、バス釣りが盛んで、専用バスボートの貸し出しもある。白馬からは、佐野坂を超え分水嶺で隔たれるが、実はこの水は、千曲川に流れ込み、やがて、日本海に至る。わずかな違いで風土まで異なった印象がある。日差しが違うのだ。たぶん、水の反射の具合だろう。その意味でも、小谷村、白馬村大町市と連続する塩の道祭りの味わいは深い。
出発地点では、おそらく500人くらいの人。昔の装束に扮したエキストラは、小谷村、白馬村が多い。町の性格の差だろう。大町では、ルートは2本あって、仁科神社を出発点とする方に人がかけられているのかもしれない。

まだ、桜が盛りで、ところどころに、オオヤマザクラが道を彩る。名所づくりのために植えられたものとは違い、そこにあるべくしてあるという風合いに満ちていて、圧迫感がない。どうも、僕は桜の名所には臆してしまう。愛でなければならないという気持ちで急いてしまうのだろうか。こういう風に咲いている桜がいとおしい。

湖畔の村を訪ね歩くような旅は、こうしてお宮でのふるまいに癒される。ここでもたくさんのお漬物をいただいた。くろにゃんとかいう黒部ダム50周年のキャラクターもやってきていたが、そうか、ここも黒部の山々かと驚く。

湖という風景には、なかなか慣れない。でも、こうして遠目に水を見ると、なるほど海に臨して過ごす僕らと同じかとも思う。しかし、湖は牙を剥くまいとつぶやくが本当のところはどうなのかは知らない。ゆっくりと、風に撫でられる旅は続く。
旅姿のお姉ちゃんがスマホをいじっていた。それも、可愛いものだ。案外、当時も、若い子は新しいものに夢中で年寄りの顰蹙を買っていたのかもしれない。

木崎湖に出ると、塩の道はしばらく水辺を離れて高台に出る。打ち捨てられた用水沿いを歩く。この用水がどういう運命を辿ったかに思いを馳せる。斜面を穿ち、切り開かれた場所には、大きな築山ができている。いつだれが手をつけて、どうしてこうなっているのか。人の暮らしに永遠などない。

ゴールは、仁科神社。大町市街にある仁科神社は、国宝で、神明造りとしては日本最古のもの。この神社は新しいものだが、神明造りの約束にしたがっている。鳥居も、仏教の影響のない時代のもので木造だ。神明造りで有名なのは伊勢神宮だが、式年遷宮を行うためかつての建築が残っているわけではない。それがまた伊勢の素晴らしさだが、ここは伊勢とどうつながっているのか。境内には、式年遷宮の幟もあったが、そこまで聞き込むにはまたゆっくりと勉強しにこよう。
近くには、西丸震也の記念館もあり、野尻湖などと同様に学者連中の避暑地として使われていた場所らしい。木造三階建ての旅館が残り、そういうのにも興味があったが、この旅はここまでにして、鹿島槍のスキー場まで山を見に行くことにする。
鹿島槍スキー場まで行くのは、実に40年ぶり。途上、その頃、2回だけ泊まったお宿も見かける。今もやっておられるようで、増築した跡がわかる。中綱湖には無粋な永久橋がかかっているが、当時は、木造の橋で風情があった。だけど、それは今からそう思えるので、当時は、しっかりした橋にみんな大きな期待をこめたに違いない。
桜がいいらしく、たくさんの人が歩き回って、よい場所を探しシャッターを切っている。簗場の駅は、素朴な駅舎が好きだったが、今はログハウスになっている。これも時代だな。後から気恥ずかしくなるが、その場ではみんな真剣なのだ。良かれと思う時、伝統とか、なりたちに一度目を向けるふりかえりが必要だと教えてくれる。
鹿島槍スキー場からは、爺が岳鹿島槍が圧倒的な迫力で望めた。正面から見るアングルになるので、山の力強さがいよいよ高まる。小さい頃は山なんか見なかったな。こうやって山が見えることなど何にも覚えていない。スキーをすることだけに一生懸命だったことにしておこう。昔よりもおしゃれになったスキー場は、西側に少し大きく伸びていた。いつか、彼女といっしょに来てもいいかな。神城あたりに泊まって、五竜とここで遊べばいいか。
汗ばむような天気です、そろそろ汗を流したくなる。今日は、おびなたの湯を選ぶ。

山からおりてきた人でいっぱいで、山の話やスキーの話が聞こえる。白馬岳もけっこうな人だったらしい。八方はフルシーズン並みの賑わいで、残り少ないシーズンを満喫できたようだ。
温泉に菖蒲が浮いていた。ネギが浮いているといった若者があったので、菖蒲湯というのをちょっとだけ教えてあげた。ハナショウブではなく菖蒲を浮かせているのはさすがに思えた。
温泉の向かいにカタクリの群生。そろそろ春が花開く。冬と春が混在するこの2ヶ月くらい。僕には大好きな季節だ。風が心地よい。