バンブーロッド体験

7月になって岡田伸一というバンブーロッドビルダーさんとのつながりで、ロッドを数本使わせていただく機会があった。先日、返却したのだが、この体験は久しぶりに道具に昂ぶる気持ちを思い出させた。
遊びに道具は憑き物で、よい遊びがしたくてよい道具を探しているのか、よい道具を使いたくて遊んでいるのかわからないくらいに、道具のおもしろさは遊びの楽しさを深めてくれる。*1
スキーもそうだし、釣りも、山歩きもそうだし、万年筆など気に入ったものがあるとそれを使うためだけに駄文を書いている。このところ、ぼちぼちと句作などをやっていて、そのときにはお気に入りの万年筆とインクを使うのだ。
フライロッドについては、そう何本も持っていない。最初にもったマッキーズのロングリフター、仲間と遊びのグループを作った記念に買ったパックロッド、子どもたちのために作ったグラスロッドの試作品、それともっぱら海で使っているワンアンドハーフ。それと、いただいた天竜のベーシックマスター。これだけかな。けっこう持っていたな(笑)バンブーロッドは振ることさえ生まれて始めてだ。
まず、ニレ池で振ってみた。どうも藪やら足元が悪かったりする場所ではおっかなかったのだ。振り始めて少し慣れると、トルクがあるというバンブーの一般的特徴はすぐに理解できた。ロールキャストも調子がいい。バットに少し力を余計に加えることでずいぶん長いティペットもよく伸びていく。元々、僕の釣りはフォルスキャストがほとんどない。流して、ここまでと思ったらロール気味にピックアップしてそのままプレゼンテーションする。そのピックアップの勝手がわからなくて、最初はけっこうもたもたしていた。ティップが上がってこない感じがしたのだが、それはロッドがためている感じをよくつかみきれていないだけのことで、理解してしまうとどーんと突き上げるくらいに力が乗る。
ニレ池の魚はよく反応してくれて、ピックアップからプレゼンテーションするとすぐに乗ってくる。おもしろいのはそこからだった。ほとんどがドライでのサイトフィッシングなのだが、アキュラシーのよさもあって魚体を見つけては鼻先に落とす。で、すぐに反応。そのまま、アワセ。ロッドにのせてしまうと、ここからがおもしろい。魚の挙動がきれいに伝わるのだ。40cm超の平均サイズでもゆっくりと魚の調子を見ながら寄せてくる。時折、暴れる魚もしっかりとためている感じがあるので、危ない感じがない。ロッドにのるとはこんなものかと感心した。
渓流での使用は、黒部川で数回。渓流でもほとんど同じ釣りで、フォルスキャストがほとんどなく、ピックアップして上流に切り返す。そういう釣りなのだ。プールでのライズを取ることが多いせいだろう。フォルスキャストでライズを止めてしまうことを嫌っている。というのもあるけれど、基本、せっかちなのだろう。ねらったレーンでも5mも流せばいいところで、やけに手返しが多い。それでいてピンポイントを拾うわけではないので、バンブーのトルクは自分のリズムを深く刻ませてくるように思えて、いつもより呼吸数が少なくなる。それは、けっこう気持ちのよいことだった。
かけてからの感じは渓流でも同じ。8寸クラスのヤマメでなかなかに楽しませてくれるし、黒部川の半分くらいまでキャストが届くのも気持ちがいい。
ただ、グリップのこともあったのか、やけに掌が疲れていた。僕はいろんなところを曖昧に握っているらしい。以前、マッキーズでロッドを修繕した時に、「グリップ太いですね、削りましょうか?」と聞かれたことがある。そのままにしてもらったが、そのグリップのいろんな部分を握っているようなのだ。精密なキャスティングをやっている人には考えられまい。いや、しかし、それも僕の釣り。今更どうにもならない。
このロッドがどういうものか、その評価をするには、あまりにも経験が薄い。評価のことばを持っていないのだ。経験と語彙が結びつかない。ただ、けっこう使いやすいことがわかった。何より、ゆっくりと呼吸できるというのは釣りの醍醐味。悠々として急ぐ。一見ディレンマを抱えたようなこのフレーズは、バンブーで確かになる。
道具とは、いいものだ。道具を愛で、道具を使うことを楽しみ、道具で遊ぶ。堪能させてもらった。いつか、バンブーを手にする時には、岡田さんのロッドにしよう。いろいろ話して時間をかけて出来上がりを待つ。そういうものにしたい。待つ時間も楽しくって仕方があるまい。

*1:この辺りは、「フライの雑誌」99号「はじめてのフライロッド」に書いている。