デスクのうえの中原中也

この間、ショッピングセンターの古本コーナーで捨ててあるように見付けた本。100円(税込)
友人のMARAさんが中也好きで時々その思いを聞いていたのは、実に30年近く前のことだ。
今、開いてみると、こういうのを書きたいと思わせるが、ボクには無理だな。こんな単純にことばを操れるほどことばを知らない。

冬の夜

みなさん今夜は静かです
薬缶と音がしています
僕は女を想つてる
僕には女がないのです

それで苦労もないのです
えもいはれない弾力の
空気のやうな空想に
女を描いてみているのです

えもいはれない弾力の
澄み亘つた夜の沈黙(しじま)
薬缶の音を聞きながら
女を夢みているのです

かくて夜は更け夜は深まって
犬のみ覚めたる冬の夜は
影と煙草と僕と犬
えもいはれないカクテールです
(後略)

時々にこういうのを開いて呟いてみる。
そういや、学生の頃、こんな本をひとつ抱えてジャズ喫茶に沈んでいた。沈みながら、例えば、「犬のみ覚めたる冬の夜」の気温を考えていた。