業界誌原稿

あまり業界内部の原稿をお願いされることはないのだが、今回、上司からある雑誌への投稿を依頼された。この雑誌に書くのは、およそ10年ぶり。年男の話で、虎の話を書いた。寅と書いた方が適切か。うちには、母、弟、ボクと寅年生まれが三人いる。慈悲にあふれた母、愚直なまでに純粋な弟。ボクはどんな虎か。それを中島敦山月記」になぞらえて書いた。ある方からお褒めをいただいた文章だった。その間の多くを別の職種にいて、いくつかの、やはり業界誌に原稿を寄せていたが、この職種では久しぶりだ。
と思ってみたら、いや、意外にそうでもないのか。何となく1年に1本くらいは書いている。何となくボクらしくストレートに書かないので、それほど反響もないので(この業界はストレートな感動が好まれる。モノフォリストは案外こうした空気を背景に育っている)、あまり記憶していないだけか。
今回のお題は、「わたしの読んだ本」。遺憾。最も苦手である。1冊の本に感動するほど単純じゃないし、批評という仕事は最も難しく、思索と表現の深奥をのぞき見る仕種が必要になる。それでこれまでの人のを見ると、読書感想文でいいらしい(笑)だけど、そんなわけにもいかないし、そんなのを書いてしまうのはもう恥ずかしさでいっぱいになるので、4月10日締め切りだが、もう準備を始めることにした。ボクにしては、まったく素晴らしく早いスタートである。これなら、3本分くらい書いていいパターンをつかめそうだ。
こんなこと書いていいのかわからないが、この業界のライティングは、たいてい、「何々と言えば」「広辞苑をよると」「天声人語で取り上げられた」「お題を頂戴してどうしようと」などから端緒が切られる。そういう人たちに書かすなと思ったりもするのだが、そんなものなのだろう。思うほどに、社会的には知識階級にあるみなさんが書けないのだ。
ところで、原稿のために本を拾ってきた。ボクらしく、なおかつ、驚いた、びっくりした、すばらしいなどの表現を用いずに、ボクとことばの位相を描き出す本は何がよいのか。
こんなところだ。

多摩川探検隊 (小学館ライブラリー―OUTDOOR EDITION)

多摩川探検隊 (小学館ライブラリー―OUTDOOR EDITION)

ねじ式 (小学館文庫)

ねじ式 (小学館文庫)

フィッシュ・オン (新潮文庫)

フィッシュ・オン (新潮文庫)

うち、「多摩川探検隊」は前に「でるくい」でしつこく2回も使ったので、今回はつげかな。