ミキティ気の毒に

安藤美姫が勝ちにきた。勝ち負けよりも自分の充実感を優先してきたような彼女だが、ここにきてしっかり勝つことを目的とし、それを達成した。
数年前のエキシビジョンで初めて意識して彼女を見たのだが、その振り切ったような演技でオーラをふりまき、その空間を自分のものにしてしまう力にはタレントを強く感じた。
そのミキティもこのところはいいところが少なかった。微妙な五輪出場、怪我、転倒。そして、浅田の台頭と国民的な人気。そのなかで、今回の大会に期するところも多かったに違いない。
最終組の最後の演技とは運命もまた過酷に作用するが、それを見事僅差だが、勝ちを手に入れる。大きく笑って次に泣きじゃくる彼女の姿にこの数年の時間が一気にあふれていた。
金メダルのインタビュアーは、ウッチー。屈託なくにこやかに聞く質問に、鼻水をしゃくりながら安藤は答える。
このときである。会場内から失笑が盛り上がった。
どういう意味なのだろう。多くの人々が浅田の大逆転金メダルを予想していたのか。あまりに安藤の来し方と行く末に鈍感な会場の反応。やはり、この国は、こうやって単純化したモノフォリストの気配に満ちているらしい。一番うまい人が勝つ人ではないし、勝つことだけが物語ではない。飛び跳ねた振幅の大きいものだけに感動し、ありがとうと叫ぶ日常に、ボクはまったく辟易している。
表彰台に憮然として立つ浅田真生。彼女の顎筋が見えなくなるときは、不機嫌なときだ。その不機嫌さが何に向けられ、会場がその浅田をどう見て、安藤にどんな気持ちを寄せていたのだろうか。