剱岳点の記

再読了。おもしろい。前に読んだのは、おそらく高校生。あの頃よりも、山と人にかかる経験が増えている分だけ情景が深く感じられる。
原稿のネタに使えそうな部分があったのでメモ。宇治長次郎について大山村の村長の言葉。

あの男はカモシカのように鼻が利いて、猿のように身が軽く、たいていのところなら登ってしまいます。力持ちで、人柄がよく、まああれほどの男はこの村にはそういません。

読んでみると、いよいよ生田のキャスティングが気になる。浅野より若く見える必要があるので、やはり、松田龍平か。*1
それと、いい役割を演じるのは、大雪渓を詰めることを聞いて先んじられたことを悟り柴崎に近づいてきた山岳会の男。これが、塚本繁松や木暮理太郎ならいいのにと思った。この役どころも注目したい。
東京を発った汽車が、沼津を経由し、やがて、名古屋、米原をめぐり、富山にやってくる。この頃、現在のように越後と越中をつなぐ鉄道はない。和田と芦峅が常願寺川で隔てられていたように、後立山黒部川は大きく日本を分けているのだと気付かされる。
先日、雄山、峰本社で見渡すと、立山は、まさしく黒部川の盾になっている。弥陀ヶ原側からと黒部川を中心にこの山域を見たときの印象が大きく異なる。剱もまたそうした山で、驚くほどいくつもの表情と光景を持っていることが知れる。富士山が多少形を変えるにせよ、どこからもその裾野の美しい台形を示すのとは大きく異なる性格を持つ。黒部川の向こうに、今にも手に届きそうな鹿島槍五竜、白馬が並ぶ。大汝、富士折立に続く山稜の向こうにやがて剱が屹立するのも実に印象的で、それらが黒部川にえぐられるようにかろうじてそこに立っているように思えた。
本の終わりに、新田次郎自身の剱岳登山のエピソードが含まれている。佐伯文蔵に案内してもらった10日間のことが描かれているが、剱岳山頂部の洞穴が半分くらいは空き缶詰で埋まっているとあった。果たして、今はどうなっているのだろう。映画化をきっかけにそうした様々なものが1200年の時代の流れを感じさせるものに戻っていくとうれしく思う。
しかし、この山。今のボクにはどうやら遠そうだ。

*1:いろいろ調べたらわかってきた。生田=松田、小島=仲村だそうだ。気負った感じが松田には向いていよう。あと気になるのは、富山県の役人だな。立山温泉で女をあてがわれていた(笑)そうか、県の役人ってそういう奴なんだな(笑)