古本5冊

昨日の送別会は飲まなかった。*1時間がなく、クルマの手配がきかなかった。
それで、10分だけ古本屋に入った。最近、お好みの文庫は高い。かさばる単行本の方が安かったりする。105円のコーナーを物色。すぐに、5冊になった。ボクはこういうことを考えながら本を買う。

誤釣生活―バス釣りは、おもつらい

誤釣生活―バス釣りは、おもつらい

バス釣りというのか、この人の釣りのスタンスは受け入れられないこともあるのだけれど、釣りをめぐる言説のあり方はボクのお好みである。取りに足りないことをこねくりまわして何かに仕立て上げつつ、書き手の方はそれほどの価値を見いだしていないというずれを作ることが、ボクにもまま、ある。高校生の頃、ある芝居を作っていてその報告文を書くときに相棒とやってからがやみつきである。
そのスタンスは、どうせみんな見えてるもの違うんだし、という諦念と納得である。
そんなことで拾い読むと、やはり、おもしろい。釣りが蠱惑であることがよくわかる。釣りという媚態にボクらは翻弄されている。最近のホンダF1にはなかなか夢が見られない。この第2期に属しているターボパワー時代のF1は「君が代」を奏でるわけではなかったけれど、ボクの中の愛国心を鼓舞した。もともと、そういうものから遠いと感じていただけに、奇妙でもあった。あとから気づいたのは愛国心ではなく、本田宗一郎の夢への共感である。小学校の頃読んだドキュメンタリーが離れない。
青い装丁で見覚えのある人も少なくないはずだ。少年版プロジェクトXのような本で、当時は、エベレストの初登頂などのドキュメントを子ども向きに書いていた。無論、黒部ダムもあった。そういうなかで、ホンダのマン島レース*2やF1への挑戦が描かれ、新聞でみかけた追い上げるジャック・ブラバムをマシンと同化することで交わそうとしたままコントロールラインを通過するジョン・サーティーズのホンダとともに、胸を高鳴らせた。頂点に立ったことよりも、頂点に挑んだことがおもしろかった。ピケやロズベルグの名前が見える。すでにその息子たちがアウトドモーロを駆け抜けている。
帰らざる季節(シーズン)―中嶋悟F1五年目の真実

帰らざる季節(シーズン)―中嶋悟F1五年目の真実

この本は、中嶋悟F1最後の年を描いたもの。ホンダのエンジンを手に入れたティレルだったが、シーズン直前になってのぴれりーへのタイヤ変更の影響もあってそのパフォーマンスを発揮できないまま、中嶋はF1の舞台から去っていく。30歳をとうに過ぎてからのF1は肉体を消耗する。最後のアデレード直前のあたりで中嶋の息子がハンカチに赤く日の丸を書いた話が出てくる。一度も学校を休ませなかったが、そのことでオーストラリアに行くため、休校願を出す。

白いハンカチーフを赤いクレヨンで丸く塗りつぶし、その上にはたどたどしい感じで「中嶋悟」と書かれている。

中嶋の遺伝子が引き継がれて、今サーキットを駆けめぐることに感動しているわけではない。長男が見た何かが彼を今突き立てていること、そうした風景が生き方に影響を与えることに震えてしまう。月並みな物語なら、中嶋の息子はそのハンカチをしのばせコックピットに入るのだろうが、彼はそうは見えない。ボクはボクのためにその旗を振るものの思いを感じて走る。そう言い切りそうな気さえしている。感傷ではなく、そこには研がれた戦いの魂の伝承を見る。

小学館のノンフィクション大賞をとったものだと記憶している。スポーツライティングに一定の立ち位置を与えたものだと思う。都並の怪我はその後しばらく続く、左サイドバック不足の序章を告げるものであり、やがて、左サイドバックに事欠かない現在の状況への布石となっている。これを読んで、左サイドに夢を見いだした奴も今Jでやっているんじゃないか。13年前の著作である。あり得る。
[rakuten:book:10816198:detail]
もうとっくにカレントの話題ではない。
当時、梅原猛は「脳死」の問題に直面しながら、医学的ではない「脳死」について語っていた。たしか、この脳死調査会では両論併記の意見書が出た記憶がある。ああ、そうだ、巻末についている。希有の思想家が、人の死をどのように考えているのかを、こうして家族や見知らぬ人たちが突発的に高まる感情と行動で亡くなってしまう現実で、もう一度考えておきたいと思った。
軽いものも多いので、2週間くらいで何とか読めるかな。
ボクには本というエネルギーが欠かせない。これは、ずっとずっと小さい頃からそうだったし、これからもそうありたいと思っている。
だけど、本フェチではなく、ことばフェチなので、本をことさら大事にする傾向は、ない。しかし、売りさばくこともできないので、転売価値に乏しい本をうずたかく積み上げることになってしまう。彼女はあきらめているのか、釣り道具と本とスキーだけは許容していただいているらしい。

*1:飲んでいたら憤っていたことがいくつかあった。書かない。

*2:マン島TTというゲームがでたとき、ちゃんと購入した。ノートンマンクスを抜いていくホンダのつもりであった