雨あがる

父が好きだった山本周五郎。このところ、集中的に読んでいる。
絶筆になった作品が収録されている「おごそかな渇き」を読んでいるが、収録された作品の中でも「雨あがる」は傑作である。たぶん、映画の方のイメージが先行しているせいもあるのだろう、夫婦の人物像がよく、色濃く浮かび上がる。宮崎美子は、カメラCMの頃以外にとりたてて興味のある人ではなかったが、この作品は大変出来がいい。原作のイメージではもう少し凛としたところがあってもいいのかなと思っていたが、いやいや逆だなと、今日になって感じている。育ちがよく、優しくて、それでいて厳しく慎ましくもある。難しいところだが、うまくキャスティングするものだと、感じ入っている次第。寺尾聡は言うまでもない。武芸に秀でて、おそらくは全く敵となるものがないが、元来のへりくだった性格故にその力を全く生かしきれない、そればかりか、そのことでかえって相手を不快にしてしまうという主人公の姿をきちんと演じきっている。
どこか少しだけずれてしまう人生の奇妙さを、例えば、山本周五郎藤沢周平は巧みに描く。それは作家その人のまなざしのありようとも言える。このごろの人のエキサイティングな作品を読まないのはそういうまなざしに共感するためだろうか。
この間、村上春樹をたった1行も読んだことのない自分に苦笑いしてしまった。そんなものだろう。

おごそかな渇き (新潮文庫)

おごそかな渇き (新潮文庫)